始まり

6/7

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
バスを降り、吊り橋を渡りにかかっているツアーの一行の中ほどに透と愛子は位置している。 吊り橋はかなり古い物のようで、歩く度に軋む。  「谷底が見えない...」  「愛ちゃん。あまり下は見ない方が良いんじゃない?」 底の無い沼の様に思える渓谷を見ていて思わず呟いていた恐怖を取り除くには若干足らないが、下を気にしない様に意識するには十分な会話だった。  「わかった。」 そう呟き、前を見据えて歩を進ませる。 吊り橋を渡り終え、道なりに山道を進むと、薄暗い林の中から自然の中にはそぐわない建物が現れた。 烏がわあわあわめき立て、不気味な雰囲気を作っていた。 山荘と言う程の物だから愛子は大きな建物を想像していた。そこに現れたのはレンガ造りの欧風の建築物で、大きさも両親の持つペンションと大して差は無い様だった。 添乗員は山荘の前の石段をやたらと注意深く観察している。そのうちに、石段の二段目の窪みに手を這わせ、中に腕を入れ窪みの中を探りはじめた。 手を引っ込め、ツアー客の前に手の平を広げられる。手の平の上には鍵が乗せられていた。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加