748人が本棚に入れています
本棚に追加
/906ページ
私の声を聞き逃さなかった春日井先生は、え?と言って私のほうを振り返る。
「知ってるの?」
…いや、彼自身を知ってるわけではない。
漆黒とも言えるさらさらの黒髪に頭がよさそうな眼鏡、堅い雰囲気。
そして、拳銃を突きつけたような冷たい瞳。
この瞳を、私は知っている。
曖昧な笑顔を見せて、春日井先生よりも早く彼に近付いた。
彼の座っている目の前に立って、その冷たい瞳を上から覗き込む。
ますます顔を歪ませて、負けじと睨み返す彼は、とても、寂しそう、だった。
無意識にその瞳へと手が伸びて、青白い肌に触れると。
さっきまでの歪んだ表情はどこかへ消え、体を硬直させて私を怪訝な表情で見つめる。
すっ、と目じりに親指を寄せて、その冷たい瞳の奥にあるものを私は探していた。
「……」
店内に流れるショパンのバラードも、マスターオリジナルのコーヒーの穏やかな匂いも、すべて、シャットアウト。
.
最初のコメントを投稿しよう!