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それは、私の大好きな音……
言葉にならない音たちだけど、生き生きと一生懸命自分たちの存在を伝えようとする。
そして、その小さくも大きい存在が音を奏でている本人の心を表現してくれる。
まぎれもない、『ピアノの音』
体育館の向かいにある校舎の三階には音楽室がある。
たぶん、そこで誰かが弾いているんだ。
ただいつもここにいても聞いたのは今日が初めて。
それにこの弾き方……
たぶん、女でも高校生でもないと思う。
音楽の先生は女のおばさん先生ただ1人だし、吹奏楽部に男がいるとは聞いたことがない。
昼休みにわざわざ音楽室にいるのは吹奏楽部のはずだし。
吹奏楽部じゃなかったとしても、この学校にそんなピアノのうまい男子生徒なんていなかったはず。
男らしさがある中にも、優しくて穏やかな気持ちを誘い出す、この独特の世界を創れる人…
誰が弾いているんだろう?
そう思い、反射的に体を起こして音楽室に向かうとした瞬間、
5時間目の授業が始まる5分前チャイムが鳴ってしまった。
その音と入れ替わるように、降ってくるピアノの音の雨がやむ。
ものすごく気になったが、次の授業に出ないといけないため、心とは裏腹に教室へと体を向けた。
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