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「つまり、三泊四日の親睦合宿は自由に班を決めることができるが、同じ中学の生徒とは組まないように。以上!朝のホームルーム終わり!」
恋情学園高等部一年五組の担任である石原啓吾が、強みのある張った声で言い終わると、委員長の「起立、礼、着席」という細々とした声が教室内に響いた。
それを皮切りに、どっと騒がしくなる教室。
入学式から一週間が経ち、ある程度の「新しい友人」ができはじめている頃だ。
教室の一点で黄色い声がする。
「誘っちゃいなよ杏里!」
「え~…でもぉ…。」
「ほらぁ!」
あはは!と笑いを含んだ声。
それに反応したのは、入学早々、はにかむ笑顔が爽やかで、女子から黄色い悲鳴をいただいている武田剛(たけだつよし)だった。
「え、何?えっと…斎藤さんだよね?」
いかにも爽やかな風が彼の背後に吹き荒れているその様子は、同じくその明るい性格、長くてサラサラな茶髪が男女共に人気の斎藤杏里(さいとうあんり)にとっては胸が高鳴る一瞬の出来事だった。
「そ、そう!私斎藤杏里!あの…その…」
「どうしたの?なんだか中井さんたちに背中押されてこっちに飛び出て来ちゃったみたいだけど。」
そう言ってクスクス笑う姿に、教室中の女子が『グッジョブ!杏里!』と心の中で叫んだ。
ちなみに『中井さん』とは杏里の取り巻きの内のひとりだ。
「あ、えっと…合宿!同じ中学の子と班組めないでしょ?だから、武田君と一緒の班だったら…楽しいだろうなと思ってるんだけどな…。」
少し控え目に『同じ班になりたい』と訴えを伝えた杏里の頬は紅潮している。
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