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「可愛いなちくちょう…」
「また進藤さん?実は信一ってミーハーだよね」
信一の呟きのような独り言を拾ったのは、隣の席に座っている剛だった。
無駄に爽やかな笑顔で軽く笑うその姿に、剛に視線をやっていた女子が悲鳴をあげた。
剛自身は、自分の一挙一動に女子が騒ぐことに免疫があるため、特に不思議がることはない。
その悲鳴をさらりと流すのだ。
そこがまた女子の黄色い悲鳴をいただく原因ともなっているわけだが。
「剛…。俺はお前の人気が怖ぇよ…。自覚ないところがまたある意味怖ぇよ」
「え?俺に人気?何の?」
「これだから…。それに、俺は進藤のことが好きだなんて言ってないからな」
「今言ったじゃないか」
「あ…」
墓穴を掘ったことに気づき、信一の頬が紅潮する。
それを見た剛の笑顔が少し崩れたのを、ファンは恐らく見逃さなかっただろう。
「信一と進藤さん、お似合いだと思うよ」
「う、うるせーよ…」
そう言いながら窓ガラスに映った由佳里を見つめる。
そこには、杏里に「写真を撮るときはそのとき用の笑顔ってものがあるでしょう!?」と写真向けの笑顔を伝授されている由佳里がいる。
そして、微笑む信一。
剛も見たことがないほど、柔らかで優しい笑顔だった。
剛が拳を握りしめたことを、誰も知らない。
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