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「剛。そっちのシーツ取ってくれ」
合宿所の宿舎。
二人用の男部屋でベッドのシーツを準備する信一が、剛の姿をかすりもしないまま言った。
「もう…自分で取りなよ」
言葉では嫌がってみせるが、信一の言った「そっちのシーツ」を信一に手渡すため、剛は自分の作業を中断して、微笑を浮かべながらシーツに向かった。
信一と二人きりの部屋で眠る。
そう思うと剛の心臓は飛び上がりそうだった。
どの女の子からの告白も笑顔でやんわりと断る剛には、片想いの相手がいた。
剛には昔から女の子に対する恋愛感情がない。
好きになるのはいつも男ばかりだ。
今回も例に漏れず、信一というれっきとした男に惚れてしまった。
信一の想い人が由佳里だと知っていても、掻き消えないほどの熱い気持ちが剛の中には生まれていた。
「そっちのシーツ」を手に取って見つめたまま、一向にこちらに寄越さない剛にしびれを切らした信一と、シーツを取るため触れたてのひらが熱い。
「好きだなんて…言えるわけないじゃないか…」
「は?何か言ったか?」
「ううん。何でもないよ」
ぼそりと呟かれたそれは、部屋にいたもう一人に聞こえることはなかった。
嫌われる勇気など、剛にはなかった。
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