封印

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机の上は散らかっていた。 ノートパソコン。マンガ。 大学の教材。小銭とコンビニのレシート。サングラス。輪ゴム。 消しゴムも転がっている。 しかし、どれだけ散乱していようと、あるものだけは大切にしまってある。 あれからもう七年が経つのだ。 武は棚においてある小学校の卒業文集に手を伸ばした。 ページをめくってみる。 『僕の夢』六年三組。沢武。 僕は将来、世界一のコックになりたい。なぜそう思うのかというと、たまたまテレビを見ていたときあるコックさんがすごく美味しそうな料理を作っていたからです。 それを食べたお客さんはすごく美味しいと満足そんな顔をしていました。 それを見た時、僕も美味しい料理を作ってみたいなと思いました。 将来は外国へ修行に行って、自分のお店を開き、美味しい料理を作って、食べに来てくれたお客さんに美味しいと言われるようになりたいです。 だからこれからいっぱい料理の勉強をしたいと思っています。 自分の文集を読み終えた武は微笑んでいた。 今はそんなこと、考えてもいない。 包丁すら使えないし、興味もない。 あの時、たまたまコックになりたいと思っていただけなのだ。 コックになりたいと書いた自分がおかしかった。大抵はそうだ。 小さな頃の夢を叶えた人間などあまりいない。
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