我が侭と料理教室

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「皇太君、皇太君」  ふいに隣から声をかけられて、僕は我に帰った。夢の中のような白い視界から、いきなり現実の教室へと意識が戻ってくる。まだいまいちはっきりしない頭のまま声を振り返ると、ころんと手の中から鉛筆が落ちた。 「え、あ?」 「あぶな」  ぱしっと落下しかけた鉛筆を掴み取って、僕の隣に座ってる女性徒(名前は忘れた)がにっこり微笑んできた。 「はい。寝てたよ、いま」  鉛筆を僕に渡しながら、おかしそうにそう言われた。 「え、あ……ほんとですか? あ、鉛筆ありがとうございます」  鉛筆を受け取って会釈を返す。 「いえいえ」  にっこり笑って黒板に向かう女性徒にあはは……と苦笑いを返しながら、僕は状況把握に努めた。    教室だ。  なにも変わりない。  僕の机には数学の問題集が広げられていて、クラスのみんなが黒板の方を向いている。別に進学校というわけでもないが、とくに授業を邪魔する不貞な輩も居ない。みんな退屈そうな表情ながらも、しずかに授業を受けていた。
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