我が侭と料理教室

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早くとらんかい! とばかりに震える携帯を鞄から出して、僕は受信のボタンを押した。着信ではなくメール。机の陰に隠しながらメールボックスを開く。 (おや?)  メールは香住さんからだった。 (あなたも授業中でしょうが)  クラスは違うが香住さんは僕と同い年、同じ学年。僕が授業中なら彼女も授業中なのは自明の理のはず。 なのに今、メールというのは……まあ、香住さんらしいといえばそうだが。  香住さん、というのは本名を香住 圭という。    僕との関係を一口で説明しろと言われれば、これがなかなか難しい。  幼馴染で恋人。同棲中。そして共に両親おらず。客観的な事実だけを述べればそれで全てだけれども。 「そうもいかないのです」 「声、大きいって」 「男女というのは意外と複雑ですから」  はぁ、と再び肩を落とす女性徒を尻目に、僕はメールを開いた。 『窓の外を見て、今すぐ』  そんな文面が目に飛び込んでくる。  顔文字なんて一切使わず、常に命令形な香住さんのメールは、らしいといえばものすごく彼女らしい。  言われたとおり、僕は窓の外からグランドに目を移した。こういうとき窓際の席はラッキーだ。  夏のまだ真っ盛り。黄金色に反射するグランドの、陸上用の白線が引かれたその第三レーンのところに香住さんが立っていた。    香住さん自慢の長い黒髪が風に揺れている。今日は三つ編みじゃなかった。    誰もいないグランドにぽつんと一人。贔屓目かもしれないがそれだけでも存在感がすごい。今そこに全校生徒が集まっていても僕は彼女を探し出す自信がある、それくらいに。 (またサボってるし)    僕は手を振って、彼女に気づいたことをアピールした。香住さんが敬礼するように手を額にあてた。    彼女の横にはなぜかキャスター付きの黒板がある。なんの変哲もない黒板だが、グランドにあるというだけで違和感抜群。体育館に置いてあったのでも持ってきたのか、まあ香住さんがすることにいちいち驚いてたらやっていけないけども。
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