我が侭と料理教室

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 ぶんぶんと腕を回して準備運動すると、香住さんがそこに大きく文字を書き始めた。 『今日の晩御飯』  白いチョークを使って、でっかくそんな文字が黒板に浮かび上がる。うんうんと頷きながら僕はそれをノートに書き写した。手を上げて合図すると、彼女がそれを消してまた新しい文字を書いた。 『の』  の、だけだった。 の、とノートに写してまた手を上げる。  また香住さんが文字を消して、新しく文字。  今日の夕飯当番は香住さんだったはず。僕にリクエストでも聞くつもりなのだろうか。珍しいこともあるもんですね……と内心喝采しながら次の文字を待った。 『準備』  準備、とノートに書く。 (準備?)  訝しく思う間もなく。 『皇太君、お願いね』  皇太君、お願いね、とノートに書く。  仕事を終えてキャスターとがらがらがら……と押して去っていく香住さんをぼーっと見送りながら、僕は全ての文字を読み直した。 『今日の晩御飯の準備 皇太君、お願いね』  ばん、と立ち上がって僕は窓から身を乗り出した。 「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、香住さん!!」  彼女に届くよう、大声で叫ぶ。  キャスターをうんしょこうんしょこ押していた彼女が、その姿勢のまま振り返ってきた。 「今日は香住さんが当番のはずでしょ!? このまえの時だって、なんだかんだと僕に当番押し付けたじゃないですか!」  窓枠に手を掛けて大声。グランドに僕の声が響いて、なんとなく気持ちいい。 教室がなんだかざわついているが、そんなことは気にならなかった。
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