‐正治君の回想・1‐

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兄は自転車を左右に揺らしながら、 「それからどうなった?」まるでクイズのように訊いてきた。 「それからぁ…、何にもないよ。三人で兜谷のお爺ちゃんの酒屋にきれいな瓶を持って行ってお金に替えて、『いまや』の駄菓子屋でくじ引きした」 「そうかぁ・・」 兄が疑わしい顔付きで僕の顔を振り返ったので、僕は目をそらし俯いた。 ‐実は嘘をついていた。この後がある。英継君が頭から血を流していない方の悪者を指差して「正治、さとる、こいつを殴れ!」って言ってキャハッと笑ったのだ。 「えーっ!」流石に僕もさとる君もびっくりした。 でも、こいつらには結構いじめられたり、くじ引きのお金なんかを奪われていたから…悔しさと憎らしさが混じって頭を過りだす。 最初にさとる君がゴンッと握りこぶしで頭を何回か叩きだした。 僕は目をつぶって、頬に向けて思いきり平手打ちをかました。 僕の平手打ちが、相手の耳に当たったらしく、そいつは耳を押さえてしゃがんだまま転がった。 その後しばらく、僕の胸がパクパクしていたのを思い出していた。 「ねぇ兄ちゃん、だから英継君は悪者なんかじゃないんだよ。正義の味方なんだからぁ!わかった?」 僕は、兄のアノラックのポケットから出した手を翼のように広げたる。 「正義の味方かぁ・・・まさが言うなら、きっとそうだな」 兄が自転車のペダルを力強く踏み込み出す。 ‐そう、英継君は僕達泣き虫のヒーローなんだ‐僕は兄の後ろで手を伸ばしたまま、キィーンと飛行機の真似する。 自転車のスピードがあがった。
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