22人が本棚に入れています
本棚に追加
急いで入り口の板戸を開ける。
英継君は、赤いセーターの上にマフラーをぐるぐる巻きにして笑っていた。
「正治、あれっ?」
英継君は僕の顔をジッと見つめ、少し悲しい顔をし、
「・・・正治、泣いてたの?父さんに叱られたのかなぁ?」
僕の顔に鼻がくっ付くほど顔を近づける。
「・・・」
僕は無言で顔を振る。
「ほんとかなぁ?」
英継君は、たすき掛けの幼稚園カバンを両手でガサガサ揺すって、きれいに畳んだちり紙をだした。
「正治。はい、ちぃーん」
僕の鼻をちり紙で押さえて、気張るように英継君も息を止める。
「ちゅぅんっ」僕は目を瞑って、鼻水を絞りだす。
「泣き虫…」英継君はキャハッと笑って、残った鼻水をポンポンとちり紙で拭いてくれた。
母が僕の肩越しに顔をだした、
「板垣君おはよう。毎日々、遠くまで通って偉いわねぇ」
英継君は僕の鼻水を拭いたちり紙をサッとポケットに隠して、
「おばちゃん、おはようございます!」頭を下げる。
英継君のくるくるの巻き毛が揺れて、美しい笑顔が母を見る。こころなしか、母が若返ったように華やいで見えた。
「じゃあ、僕行くね。後でね!」
くるっと回った英継君の定期券が大きく揺れた。
歩いていく英継君が歌っている。〈…このまま死んでしまい〉と。
母が言っていた〈かわいそうで不幸〉だと…。
僕は英継君を救えるのだろうか…。
〈…このまま死んでしまいたい〉英継君の悲しみに涙が零れた。
最初のコメントを投稿しよう!