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‐つかさ君の回想・1‐
その晩は、家族で銭湯に行くことになっていた。
夕飯が済んで暫らく、父はテレビの相撲のニュースを観ていて、藁半紙の相撲の星取り表を片手に難しい顔をしていた。
そんな父を横目に、座布団に座っている僕は、後ろ手を着いて首に提げたバスタオルをぐるんぐるんっと首と一緒に回しながら、
「母ちゃん、先に行こうよぉ」
母に急かす。
「もう少し待ちなさい」
台所から母の声がかえってくる。
「もう…」
工藤司は、苛々していた。
‐あ~ぁ、皆はもう来てるだろうなぁ?-
銭湯は、つかさの年頃の子供にとって嬉しい遊び場だった。
町内の友達が、暗い夜に集まり遊べる、本当に楽しい事だった。
つかさは年子で、小学校1年の姉、小学校2年の兄がいた。
兄は二軒隣の及川さんの家にプロレスを観に行っていて、今はいない。
姉の好子が僕の隣で、さっきから湯桶を忙しなく揺らしいる。中の石鹸箱がからからっとあたる音が耳障りだ。
「よっし、行こうか!」
父がテレビのスイッチを切る、テレビのアナウンサーの映像が小さな丸になって、フッと消えた。
父が立ち上がって大きく背伸びをする、父の伸ばした腕が低い天井から下がったアルミの電球カバーにあたった。
灯りがぐらぐらして、家が船底のように揺れた。
サンダルを突っ掛け急いで外に出る、向かいの長屋に住む永井君達が歩いきた。
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