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永井君の家族の笑い声がドッと響く、
銭湯から、今帰って来たらしい。
母が頭を下げて、
「今晩は、今帰りですか?」
父が話し掛ける。
「ええ。私達が行ったときは混んでましたが、ぼちぼち皆帰って、今ならすいてますよ」永井君のお父さんが言葉を返す。
永井君は、さっきまで手を繫いでいたお母さんからサッと手を払い、サンダルをズリッズリッと道に擦って訊いてきた、
「つかさ、毅は?」永井君は兄の同級生で、空き地野球『三角ベース』が得意だ。
手足の長いひょろっとした体つきで、運動神経がいい。
しかし、兄に言わせると‐頭が空っぽなスポーツ馬鹿-らしい。
暗い道に漏れる濃いオレンジ色の四角い窓明かりを指差して、
「真君のところでプロレスを観てる」
僕が答える。
「ふぅ~ん。毅も真もプロレス博士だもんなぁ」チラッと真君の家を見た。
「じゃあなぁ、つかさ」
お父さんにふざけて頭を押され、永井君がワザとらしく躓きながら家の中に入っていった。
「ローハイド!」
輪にしたバスタオルで姉の背中を叩く。
「つかさっ!」
姉がタオルを振り回しながら追いかけて来る、カコッカコッと姉の下駄が楽しげに鳴った。
カーテンの色や模様だけが、その一家の印であるように、色んな窓明かりに染まった長屋が両隣に並んでいる。
細い土の道を歩いて行く、及川さんの家の半分開けっ放しの板戸から、プロレスの観戦のどよめきが響いた。
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