‐英継の黙された過去‐

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男の子は、父親が呼び出された次の日から数日から一週間、幼稚園を休んだ。 何日かぶりで幼稚園にやってきた男の子を見て、先生方やシスターは驚いた。 美しい顔は紫色に腫れ上がり、青みがかった白目が血で赤く濁り、ピンクの愛らしい唇は赤黒く捲れあがっている。 頭に包帯を巻いて、片足を引き摺って歩く姿を憐れみ涙した。 そして己の行動の浅はかさを恥じて、先生方もシスターも神に祈り罪を懺悔した。 怪我をしている男の子は、さすがにおとなしく、冬はストーブの前にコロンと横になり、 夏は樅の木の根元の夏草にうずくまって、あの歌を口ずさんでいた。〈…このまま死んでしまいたい〉と。 怪我をしている時、男の子は礼拝堂の一番前の席にちょんと腰掛けて、マリア像に向かって手を握り合わせて長い間祈っていた。 小さな背中を丸めて祈る姿は、まるでルーベンスの宗教画のように無垢で、人の試練、神の導きと救いを体現していた。 シスターは傷ついた男の子に神の使者を見たと、神の奇跡に涙が溢れて止まらなかったという…。 それからというもの、男の子は朝の礼拝から1時間ほど、シスターと過ごす日が続いた。 礼拝堂の拭き掃除をしたり、
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