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そんな狭いながらも賑やかで、人情厚い場所で、正治は生まれ育った。
チヒでせっかちで家族思いの父。
少し太めて、いつも笑っている鷹揚で優しいな母。
弟思いの真面目で働き者の兄、そして、チヒで痩せて泣き虫の僕…。
長屋には細い路地を挟んで小さな平屋の家が5件づつ並んでいる。
家の間取りは簡素で、両親の寝室兼居間兼食堂の六畳間、僕と兄の部屋が四畳半、トイレ、入口の土間が二畳。
これで何も不自由はない。
周りの皆だって、楽しくここで暮らしいるんだから、もっと家族の多い家だってたくさんあるんだから。
歯磨きと洗顔が済んだら、急いで着がえる。
兄の漕ぐ、父から借りた自転車の後ろに跨がり販売店に向かう。
自転車のスピードがあがる、アノラックを着た身に冷たい風が刺さる。
「まさ、お前さぁ。あそこの板垣と遊んでいるだろう?」
『アパート富野町』の前を通った時に兄が訊いてきた。
「うん。友達だよ!」
「友達かぁ」
「うん、英継君はすごぉ~い仲良し!」
僕は兄のポケットの中に突っ込んだ手を、グウチョキパーしながら応える。「ふぅ~ん、アイツ評判悪いけど・・・まさは大丈夫か?」
兄がチラッと後ろを向いた。
「ひょうばんって、何?」
「皆が、板垣は悪者だって噂してるってこと」兄は下を向いて自転車を強く漕ぎ出す。
僕は手をギュッと握りながら
「誰が英継君を悪者だって言ってるの!」だって、英継君は町内のヒーローなんだ。僕やさとる君、つかさ君につかさ君のお姉ちゃんだって皆、英継君が大好きなんだからぁ。
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