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日中とは一転、日が沈むと砂漠は一気に冷え込む。
じりじりと水分と思考力を奪う暑さが、今度は体温と気力を奪う寒さに変わる。
「──!!───い!」
「──ろ!!……──くそっ、──!!医療隊──!」
静かに風の音だけが聞こえる夜の砂漠に一つの叫び声。
それに少し遅れて、砂を慌ただく踏みしめる鈍い足音がいくつか聞こえる。
「駄目です、とてもこの環境では…」
冷たい砂に身を沈める者を見て1人の男が目を背ける。
「待ってください!
帰翔石を使って帰れば、まだ助かるかもしれません!」
その言葉を聞き、少し離れた場所からガシャガシャと金属がぶつかり合う音が近づいてくる。
音の正体は重厚そうな鎧であったが、
それに身を包んだ女でもある。
「しかし、帰翔石を使うのは緊急の時で……」
「今が緊急でないなら、なんだというんです!」
甲冑に身を包んだ女が勢いをつけて、白いローブを纏った男に詰め寄る。
「貴様、先ほどから騎士の分際で──」
それを聞いていた集団の中から
また別の男が現れ口を挟もうとすると、「待て」とすぐそばから低い声が聞こえた。
「その者の言う通りだ。
人の命か金かなど、秤にかけるまでもない」
男はそう言うと、自らの鎧の腰辺りにくくりつけてある袋から
小さな石を取り出した。
「帰翔石を使い帰還する!
帰還後は直ちにこの男を治療部屋へ運べ!!」
小さな石を握りつぶすと、砂漠は静寂を取り戻した。
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