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信長の背中が見えなくなるまで、私は動かなかった。いや、見えなくなっても動けなかった。
勝ったけど手加減された悔しさ、死を恐れてしまった恥ずかしさ、今のままでは信長に到底及ばないと悟った苦しみが、興奮が冷めるのと同時にジワリジワリと心の底から滲み出て、私を地面に縫い付けたまま離さなかった。
「久遠様?」
どれぐらいそうしていただろうか…藤丸が心配そうに俺を覗き込んできた。
その瞬間、一気に緊張の糸が切れて、みっともない勢いで涙が溢れてきた。足の力が抜けて崩れ落ち、子供のように声をあげて泣いた。
「久遠様!?」
「…藤丸…!!」
「何ですか?久遠様」
「私、強くなる。こんな勝ち方、悔しいよ…」
「私は、どこまでもお供します。久遠様」
藤丸の温かい手が、私の頭を撫でる。優しい手つきに俺は、更に涙が出た。
暫くそうしていると、頭を撫でていた手が離れ、目の前に差し出された。
「さぁ、行きましょう。京都までもうすぐです」
「うん…」
気がつけば殆ど日が落ちていた。
私は藤丸の手を取って立ち上がり、京都への道を急いだ。
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