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女だからと言って、剣術を学ばなかったわけではない。この戦乱の世を生き抜くため、ある程度の武術は親父から習ってきた。
幼い頃から軍記物を読んだり聞いたりしていて、強い人間に憧れがあって、自分でも訓練もしてきた。
「大きな口を叩く割りには、弱いな」
「っ…」
しかし…小国の武将の娘と生粋の武将との間には、大きな力の差があった。男女という差もあるが、それ以上に産まれ持った身分の違いという圧倒的な差があった。
激しい斬撃をギリギリで受け止めつつ、信長の隙を探すが見つからない。いや、見つける暇が無い。少しでも意識を逸らせば……私の体は簡単に切れてしまうだろう。
そうして何度目かの斬撃を受け止めた時、信長がつまらないとばかりに大きく溜め息をついた。
「もう終わりにするか」
「…久遠様ぁぁっっ!!!」
藤丸の叫びが響くと同時に俺は、下腹部に衝撃を受け、吹っ飛ばされた。信長に蹴られたと理解するのに数秒かかった。
このままでは拙いと、すぐに体勢を立て直そうとするが、信長の刀が降りかかる。慌てて避けると、さっきまで自分のいた所に刀がザックリと突き刺さっていた。
「…う……あ…」
一瞬でも遅れていたら、死んでいた…。初めて、死を感じた瞬間だった。
すぐに立ち上って再び刀を構えるが、自分でもみっともないぐらいにガタガタと体が震える。手の平が嫌な汗をかいて気持ち悪い。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない……。
「そんなに震えて…おぬし、死ぬ覚悟も無いのか?」
信長が笑う。
それと対照的に、私は恐怖や緊張で目の前がぐらぐらと揺らぎ始めた。もう、何もわからない。
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