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「わぁ!見てくださいよ師匠!ほら、やっと僕にも火が出せるようになったんですよ!」
馬鹿弟子はいつも以上に上機嫌に、まるでプレゼントを貰った子供のようにはしゃいでいる。背丈も私より随分と大きな大男がはしゃぐ姿は、何とも新鮮で呆れ返るほどだった。
「まぁ・・・及第点だな、まだまだ呪術の道は長いんだからな、鍛錬に励めよ」
「分かってますよ。師匠!」
本当に調子の狂う奴だ。こんな、呪術においては基礎中の基礎を出来たくらいで嬉しそうにするなんて相変わらず変わった馬鹿弟子だ。
だが、この発火の術は基礎中の基礎の術であり、これが満足にできぬやつは大抵他の術でも失敗してしまう。その点、馬鹿弟子は大した出来であった。そこら辺の呪術師よりいいスジをしている。凛としている美しい火である。うん、これでこそ教え甲斐があるというものだ。
そこからというもの、馬鹿弟子はめきめきと成長していった。発火の呪術が使えた事が嬉しかったのか、もっと他の術をもっと他の火の使い方を私にせびってきた。
私も、呪術などせがまれたくらいで簡単に教えるほど易しいものではないと分かっていたのだが、どうもあいつの頼み事には弱いらしい。だからというもの、私はひょいひょいとあの馬鹿弟子に術を教えていった。
「いやー師匠、この呪術で発生する火って言うのはただの火じゃないんですね」
「そうだぞ、この火は毒にも薬にも脅威にも加護にもなる。昔はこの火を敬い畏れ、恵みを享受していたのだがな」
「勿体ない話ですよね」
「そうだな・・・だが、それが大勢に選択された結果だ。今更どうこうする気も起きないさね・・・」
「せめてそっとしておいてくれると有難いもんですがね、今日だってもう何体の刺客が来た事か・・・」
馬鹿弟子の言う通り、この頃教会の聖職者連中から送り込まれてくる冒険者たち、もとい私を殺しに来る刺客が増えてきて仕方がない。もはや、朝昼晩の日課のようになりつつある。
「この前なんて未知の毒を鏃に塗ってくるんですもん、殺る気しか見えませんって」
「まぁな、あの時は私の術で治癒できたが・・・貴様にもこういう術を教えといた方がいいな・・・死んでもらっては困る・・・」
「へ?今、師匠なんておっしゃいましたか?」
馬鹿弟子は、目を白黒させて心臓に杭を刺された様に驚いていた。
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