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「今更、死んでもらってもいろいろと無駄になる、だからそんな事はさせんぞ」
「おぉう、師匠って意外と・・・独占欲強い方なので?」
「ん、なんだ、今頃となってそんな事を?お前はとうに私のものだろう」
「へ・・・あ、はい・・・」
この時の馬鹿弟子のあの顔は今でも忘れれない。いつも飄々としていたあいつが他所の猫みたいな顔をするのだから傑作ものである。と、私と馬鹿弟子は過酷ながらもそれなりに楽しく暮らしていたさ。
だが、物語はそう簡単に幕を下ろさせてはくれなかった。あの教会連中がついに本気になったのだ。
何度も言うが、私たちから彼らに食って掛かっていった事なんて一度もない。それなのに、こんなにも熱心に呪術狩りをするのだから随分と暇な奴らだと思う。
教会の連中は、今まで自分たちの勢力を直接送り込むのだけはしてこなかった。いつも、有名家気取りの冒険家か、哀れにも熱心な信者の騎士や賞金目当ての傭兵に討伐をやらせていた。教会はできるだけ自分たちの手を沼と穢れに覆われた呪術師の血なぞで汚したくなんてなかったのだ。いつだって、どこだって、忌々しいほど神聖で禍々しいほど高潔にないと生きていけない奴らだった。例えこいつ等が信じている神様であってもそこまで綺麗好きじゃないとは思うがね。
そんな教会が自分たちの持つ騎士団を投入するという知らせが仲間の呪術師から届けられたのだ。
規模も、今までの何十人単位ではなく、何百何千人の規模だという。当然のことながら、目的は私の首だ。
「ううむ・・・」
「どうしたんですか師匠?」
「おまえも知ってるだろ、教会の騎士団だよ・・・」
「あぁ、あれですか」
「今回ばかりはそんな呑気も言ってられんのだがな」
「で、その騎士団とやらですが『討ち』ますか、それとも『逃げ』ますか?」
「ふん、討つと言っても規模が違いすぎるぞ?できるのか、馬鹿弟子」
今回ばかりは幾ら百戦無敗のこいつでも無理だろう。私も腹を括ってこの沼から離れる決心でもつけようと思っていた。だが、その矢先、この馬鹿弟子はやっぱり底知れない馬鹿弟子なんだと思い知らされた。
「いえ、できますよ師匠、師匠のためなら何千何万幾度ない大軍でも退けてやりましょう」
馬鹿弟子は虚勢でもなく強がりでもない、いつも通りの読めない笑顔で立っていた。
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