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私は、私はその顔が大嫌いだった。その顔は底が分からなくなるからだ。この馬鹿弟子が捉え難く、底知れずの怪物のように見えてしまうからだ。だから、底知れぬき恐怖の怪物だから、私はこの馬鹿弟子をどこまでも信頼してしてしまう。
「そうか、なら任せたぞ、馬鹿弟子」
「はい、いつも通り仰せのままに、師匠」
そうして、ついに奴らはこの大沼に来てしまったのであった。どうやら馬鹿弟子が事前に何か沼の周りに仕掛けをしていたのを見たが、私には何をやっていたのかさっぱりだった。
私は家の傍にあるロッキングチェアに腰を掛け、ゆらゆらと揺れながら大軍がわが家を包囲する様を見ていた。相変わらず、御大層な飾りつけを拵えた防具が燦々絢爛に輝いている。こんな湿気とぬめりの大沼にたいそうな事だ。だが、この後に起こることを考えると、最後に綺麗に着飾れたのだから良しとしとこう。
「馬鹿弟子、私の手助けは要るか?」
「いいえ師匠、今回は僕だけで十分ですよ、あいつら非常に僕のやりやすいように広がってくれましたし」
「ふふん、だが貴様にあの大軍を相手する術を教えた覚えはないが・・・まさか自慢の怪力と剣術か?」
「いいえ、そこまで無謀じゃないですよ、ほら、この前師匠が裏山で木の魔物を焼き払ったじゃないですか、地面から次々と大きな火柱を上げて」
「あぁ、あれか・・・って、それはまだ教えた事なかっただろ!おい、馬鹿弟子ッ!」
気が付くと馬鹿弟子は後ろ姿で手を振りながら沼の方へ水音を立てながら下りて行った。
「やぁやぁ!我こそはぁ!偉大なる地母神カデア様の騎士である・・・」
教会の騎士団のリーダー格が陣頭で何か叫んでいた。私の頭はそれどころじゃなく、あの馬鹿弟子がしでかそうとする事で頭が真っ白になっていた。正式に教授していない呪術を使うなど言語道断である。下手をすると自身もろとも周囲のすべてを呪いの猛火で焼き払ってしまう可能性もありうるのだ。
「馬鹿弟子!やめんか!!」
私の声は届かず。馬鹿弟子は右手に呪術の鬼火を灯しながら、地面にその拳を突き立てた。
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