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私は大沼に住む呪術師だ。
もっと言うと、私の母や祖母も呪術師でそのまた何代も前から呪術師をしている家系だ。
まず、呪術ってのを説明してやろう。はっきり言ってそこらの学者の使う魔法や女神様や神官共が使ってる祝音と大差はない。
だが、ちゃんした使い方で使わないと自分が呪術に蝕まれることにはなる。
まぁ、ここからは踏み入った話になるから簡単にまとめるとだ、つまりは無から炎の嵐を生み出し、毒の霧を撒き、生きとし生けるものを誘惑することもできる術だ。
聞こえは凶暴だが、毒も転じれば薬となり、誘惑も使い方で気を安定させる。炎も生活には必需であろう。
だから、私の祖母の時代まで呪術師は尊敬されてたさ。
そう、あの女神が現れるまではな。どちらかといえば女神は自分の祝音で人々を幸せにしたかっただけなんだろうが、神官連中の選別でしくじったせいで選ばれた物しか幸せにはなってない。
現に私は、いや、私のような呪術師は沼や森や山奥やで潜んで暮らすしかないのだからな。
やつらは自分たちの神秘の力である女神の祝音以外の神秘は認めやしない。
魔術ですら、その学術的な要素が無ければ呪術のように排斥されていた。
そう、呪術は今の世には認められず『堕落の術』なんて呼ばれて蔑みを受けている。
だから呪術師は素性を隠して暮らすか、私のように年頃の娘でさえも惨めにひと気のない沼で暮らすかしかない。
「はぁ、いるのは沼の魔物か人の死体ぐらいだからな」
こうして一人で沼を眺めて一日を過ごす。
私もとうに二十歳を超えて何年になるのか……
いいや、今はそんなことよりいつまで生きれるのかだ。
神官連中は独自の騎士団を使って呪術師狩りと称し異端者を殺し回っている。
「ふっ、なにが女神だ……どっちが歪なのかは一目瞭然さね」
そうやって何もない淀んだ沼に悪態をつく。
その後は日が落ちかけるまでに夕食の準備にかかるのだ。
今日もそうしようとした矢先だった。
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