迦陵頻伽 ―Kalavinka―

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―――コツ、コツ、コツ…… 裏街への入り口に通じるトンネルの中に響く足音、彼の耳元の携帯電話から微かに携帯の呼び出し音 「…………こんばんわ先生」 『どうしました、会ったばかりだと言うのに……さては惚れましたか?』 2人の型を例える言葉ならいくつもあろう、裏で繋がる敵同士は一蓮托生 まるで遠距離恋愛の恋人の如く惹かれ合い求め合い同じ穴に堕ちる 「キスの1つくらい構わない気分だよ……清算の時だ……ただ、往々にして恋に障害は付き物、その名は九頭龍……迷いはある、この命は誰に捧ぐべきかと……長年のライバルか、気に食わない正論を吐く正義か……未来の担い手への憎しみという名の糧とするか」 『焦りが見える、貴方らしく無いですよ……』 「……焦るさ……ついに悪運尽きる時が来るんだ……けど……悪党の命などくれてやれ、足りなければ天使の命を……ホッとした、独りじゃないんだってね……」 『…………そのユダの接吻、受けましょう……九頭龍になど渡せませんし雀君達が背負うには重すぎる……貰いますよ、貴方の命』 トンネルの真ん中で足音は止まり、隻眼の男は煙草に火を灯し、震える手を見て笑った、酷く頼り無い笑顔で 「……僕の前に立つのが君である事を祈ろうアザレア……しかし死にかけた君が九頭龍、元は神だった者に勝てるか微妙だ……」 『まさかこんな戦い方があるとは……天使から信仰を奪うとは驚きですよ……ルナ・シルバーマン……矛盾と言う名の最強の剣でした……しかし貴方は必ず殺す、その理想は素晴らしいがソフィアに及ばない』 「不死同様、長寿過ぎる者も理解出来ないか……この願いは継がれて行く、僕が居なくとも……彼らの代で決めてくれるだろう……役者は揃え台本も書き上がった……意志を継ぐ者がいる……体が震えるほど心強く、誇らしい……世界中に自慢してぇ気分だアザレア」 隻眼の男は携帯を切るとゆっくりトンネルを歩き、煙草のフィルターが焦げた頃、夕闇の路地裏へ辿り着く トンネルの前の最近出番の無かった愛機に跨りキーを回した隻眼の悪党と 遠い国の保健室の偉大な天使 神に与えられた友を神に因り奪われたホログラフ 彼らは同時に夜空を見上げると告発した、それは遠い夜空を挟むハーモニーとなるがけして誰にも聞こえはしないだろう…… 今はまだ 「罪深き者……汝の名は神なり」
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