梅の舞い

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家に着くと、「お嬢様」とばぁやが近づいてきた。何、お母様の言付けなんて聞かないわよと睨み付ける。ばあやはそれに物怖じもせず、優しい笑顔でこちらにと手を引いた。 向かった先はばあやの八畳一間の寝室。何かと思えば机に夕飯が並べられている。お座りなさいと座布団に座らされた。 「奥様は夕飯など捨てなさいて言っておりましたがね、やはり食べ物を粗末にするのは良くありませんね。温め直しましたよ。さぁ、お食べなさい。お腹が空いたでしょう」 味噌汁の湯気が私の左頬を掠める。駄目ね、この頃涙ぼろいみたい。 ありがとう。そう言って味噌汁を啜る。心に伝わる温かさ。久し振りに体験したわこの感じ。 半年に一回だけ私の部活は三時終わりになる。顧問が勉強会に行くからだ。 春休みになっても、常に朝八時から夕方六時の私の部活は、毎年関西大会で金賞をとる、吹奏楽の強豪だ。 そして毎日のようにその後はお稽古事。六時半には家の客間にいなければならない。 「お嬢様、今日の幕はどうでした?」 ばあやがお煎茶を入れてくれる。口に含めば、程良い苦味が広がっていく。うん、美味しい。 「封印切でした。梅川が美しかったですよ」 鯖の煮付けの生姜をつつく。もう身はない。 「そうですか。それはようございましたねぇ」 この人の作る笑顔は人を癒す効果がある。それは私の長年の研究結果による結論だ。 「デザートは豆乳プリンです。お嬢様が好きな豆明堂のですよ」 終わり良ければ全てよし。床の間に飾ってある一輪挿しの梅の花が一つ、静かに開いていた。
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