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蒼い風が自転車に乗る僕の背を押してくれる。
「砂川っ」
後ろから追いかけてくるは相棒の左内雄士。初等部からの付き合いだ。
「いつもおせーんだよ、ゆーし。遅刻するやろ」
「わりぃ、妹が寝坊してさ」
「ゆーしん家、共働きやもんな。毎日偉いよな、ほんと」
「何やねん、急に」
いや、と言いかけて思い止まる。これは言うつもりの無い話だ。
「それよりさ、こないだの南座の公演、俺見に行ってやったで。梅川やっけ?ほんま人違うくなんなぁ、徹弥は」
「それどっち」
「褒め」
見えてきた校舎から予鈴が鳴り響く。急がねば新学期早々遅刻してしまう。
「置いてくで」
立ち漕ぎラストスパート。雄士が「待って!」と錆び付いた自転車をがたつかせて追ってくる。
「いそぎよー」
風紀担当なくせして寝癖爆発な教師の声が飛ぶ。言われんでも急いでるがな。
なぎ倒す勢いで自転車を止め、教室に向かう。やけに厳しいこの学校は、学年が変わってもクラス、席すらも変わらない。ただ階が一つ上になるだけだ。
「二年は二階になるんだよな、めんどくせぇ。階段きつぃ」
「じじいかてめぇ。のろのろしてっと遅刻印押されんぞ、ゆーし」
「わかってるよっ」
二段飛ばしで階段を駆け上がる。
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