銀色の羽を飛ばして

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本鈴と共に教室に駆け込む。まだ担任は来ていないようだった。 「辰おはよー」 「おう」 鷺谷紅子が今日も眠そうな顔で挨拶してくる。こいつも『蝶屋』七代目鷺谷十兵衛の娘、つまり梨園の人間だ。 左端の隅にはいつものように龍川小百合が静かに本を読んでいる。ブックカバーをかけているせいで中身は分からない。 その前に座る。いつもの風景だ。窓から見える体育館の赤い屋根は、見る角度が変わったせいで前よりも眩しくなった。 「はーい、お馴染みの潮見だ。また一年よろしく」 風紀担当であり、化学科主任で、二年D組の担任、潮見雅人が気だるそうに出席をつけ始める。 「砂川くん」 後ろからペンでつつかれる。振り向けば龍川がハンカチを差し出していた。 「貴方のお父様にかしてもらったの。それとこれはお礼のクッキー。いらなかったら捨ててね」 そう、僕にそれらを押し付けて目を本に戻す彼女。もう表情は伺えない。 僕は返す言葉を見つけられずに、ゆっくりと前に向き直した。
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