銀色の羽を飛ばして

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受け取った『新田屋』の屋号が入るハンカチ。 それと透明な袋に入った淡いピンクのクッキー。 久し振りに話しかけられたな、龍川小百合に。 今日で一年間前後の席だったにも関わらず、僕と彼女は友人にもならず、声をかけあう事すらもあまりなかった。 話したのは一度。初の大役『京鹿子娘道成寺』の白拍子を演じた次の日に、「白拍子やってた?」と聞かれた時のみだ。 ただ自然に、まるで今まで話したことがあったかのような聞き方だった。雰囲気も、仕草も、声も。 彼女が歌舞伎に詳しいということはその時始めて知った。ちらりと見えた本が父が著した歌舞伎読本だった。 その時も同じようにブックカバーがかけられていたが、それは文章を見ればわかる。何十回と読んできた本だ。 「砂川ー、菓子はなおしとけよ。二度目は奪って食べるからなー」 「すいませーん」 あはは、と直ぐに消えるような笑いが周りに広がる。 「ごめん」 後ろから微かに聞こえた彼女の声。え、何で謝ってんの。 授業開始のチャイムが鳴り、潮見がそのまま化学の授業を始める。 でも、その間僕の頭からは彼女の声が消えなかった。
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