銀色の羽を飛ばして

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夕方、ホームルームが終わると、いつものように自転車置き場まで走る。 紺のサドルにまたがって一キロ離れた家を目指す。今日はまだ時間に余裕があるな。でもだからって何処かに寄れる暇はない。 交差点に差し掛かろうとしたとき、青信号が点滅し始めた。ここの道路は六車線もあるから、こうなったら渡れない。 ブレーキをかけて、静かに止まる。目の前で名前も知らない小さな虫が右から左へと蛇行しながら飛んでいった。 奥に見える河川敷の桜はまだ咲いてはくれない。梅だって今年は春の嵐で咲くなり散ってしまった。 つくづく花見ができないな今年は。また桜が咲く頃には台風が来るっていうし。ついてない。 信号が赤から青に変わった。ペダルを足で押す。進む自転車と自分の体。 交差点を渡りきって、家までは後300メートル。もう大きい交差点で信号に引っ掛かることはない。 スピードを上げていく。着くなら出来るだけ早い方がいい。 交差点から三つ目の角を通過する時だった。道の真ん中でお婆さんが往生していた。 下を見れば、どうやら財布を落として小銭をばらまいてしまったようだった。 しかし、お婆さんは杖をついてうまく拾えない。あぁっもう、後ろから車が来てるやないか! 僕はカーブミラーの手前に自転車を置いて、お婆さんのもとに向かう。 「お婆さん、車来てま……」 がしゃあん!と音がした。メイン通りから大型トラックが曲がって来て、お婆さんをはねたのだ。
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