銀色の羽を飛ばして

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現場整理で仕切られたブルーシート。野次馬と警察の声が混ざって、不協和音をこれでもかと奏でている。 僕は状況説明をして、また後日警察署まで来るように言われた。 もう日は沈み去っていた。あのお婆さんは、一度意識が戻って、僕には恐らく遺言であろう言葉と自分に対する感謝の言葉が託された。 真っ青な顔で言われた「ありがとね」の言葉。そんな余裕があるわけないのに、必死に笑顔を見せていた。 そして、救急車が来てすぐに病院に運ばれていった。 容態はなんだったか、救命士が叫んでいたはずなのに覚えていない。自分にはそれはどうでもよくて、ただ生きれたのか死んでしまったのか、それだけが気にかかっていた。 犯人の顔なんてわからないし、警察は僕がメモしたナンバーが唯一の手がかりだったらしいけれど、それはもういい、警察に任せるしかない。 現場整理の為に国道沿いの歩道まで移動された自分の自転車に跨がって、よろよろと家に帰る。 桜が見たい。もうこのまま河川敷まで走りたい。 でも今からすぐに帰って、すっぽかした稽古の埋め合わせをしなければならない。まだ桜だって咲いてくれない。
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