梅の舞い

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ぽたりと南座に波紋ができた。傾城梅川の死をも決心した笑み。それが私達を一瞬で包んでいく。 虜にされる、まさにこの場面。何で、貴方はそんな顔を作り出せるのだろう。 「新田屋ー!」 誰かの大向こうが辺りに響いていく。お情け無しの心からの叫び。 それが連鎖となって、次々と「新田屋」の声が広がっていく。 駄目だ、涙が止まらない。彼が遠すぎて、愛しすぎて、何も考えられない。 もし、貴方にこのような笑みを作り出している人がいるのなら、一回でいいから替わってみたい。 私だって作り出してあげたい。可憐な姿を一度でいいから、私が作ったと思いたい。 辰之助くんじゃなくて、徹弥くんと呼んでみたい。そんな仲になってみたい。 だから、そんなに私に背を向けないでよ。歌舞伎しか目がないなんて、そんな嘘つかないでよ。
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