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公演が終わって、席を立とうとしたとき、横の人に「お嬢さん」と声をかけられた。
「あなた、大丈夫?」
朗らかに笑うその顔を知らないわけがない。彼のお父さん、五代目朔五郎さんだ。どうしてこんな末席にいらっしゃるのかしら。
「急に話しかけて済まないね。何せ息子と同じ制服を着ていたものだから」
そんなに感動してくれたのかい。私の泣き腫らした目を優しそうに覗く、信じられないお方。
すみません、感動だけじゃないんです。純度50%なんです。あとは私情が混じっているんです。
でも、そんなこと言えない。だから「はい、とても素晴らしくて」と嘘をつく私。
徹弥と同い年?と聞かれて、同じクラスですと答える。そうか、とまた笑みが広がった。
あぁ、似てる。その笑窪が出来るところとか、目尻の小皺とか。
「朔五郎さん」
お付きの人だろう。急いでいる様だ。
「では私はこれで」
よかったらこれ使ってね、と渡された家紋の入った綺麗なハンカチ。
そしてお礼を言う暇なく去っていってしまった。
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