梅の舞い

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え、何。何が起きたの。 白抜きのハンカチを握る手を見る。親指と人差し指の間からはみ出る布には確かに「新田屋」の文字。 これ多分非売品、というか砂川家一門にしか配られてないものなんじゃ。 余りにも衝撃的過ぎて、震える手のひら。私が朔五郎さんに直に会えるなんて、それも話してハンカチまで貸してもらうなんて、天地でもひっくり返る勢いだ。 「ありえない……」 ポツリと呟いた言葉が疎らになった南座に消えていく。 手の甲をハンカチに押し当ててみると、少しひんやり冷たい。 あ、なんか癒される。 そう思ってしまったことも申し訳ないほどに、私とは釣り合わないこの物体。 私なんかが持っててもいいの?そもそも、これ、どうやって返そうか。 ふと、思い付いた。前の席に朔五郎さんの息子様がいるじゃない。彼にお願いすればいいのよ。 そして、あわよくば友達にでもなれたら。 …………だめだめ、そんなこと考えてどうするっていうの。人様の御厚意をそんな形にしてはいけないでしょうよ。
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