37人が本棚に入れています
本棚に追加
え、何。何が起きたの。
白抜きのハンカチを握る手を見る。親指と人差し指の間からはみ出る布には確かに「新田屋」の文字。
これ多分非売品、というか砂川家一門にしか配られてないものなんじゃ。
余りにも衝撃的過ぎて、震える手のひら。私が朔五郎さんに直に会えるなんて、それも話してハンカチまで貸してもらうなんて、天地でもひっくり返る勢いだ。
「ありえない……」
ポツリと呟いた言葉が疎らになった南座に消えていく。
手の甲をハンカチに押し当ててみると、少しひんやり冷たい。
あ、なんか癒される。
そう思ってしまったことも申し訳ないほどに、私とは釣り合わないこの物体。
私なんかが持っててもいいの?そもそも、これ、どうやって返そうか。
ふと、思い付いた。前の席に朔五郎さんの息子様がいるじゃない。彼にお願いすればいいのよ。
そして、あわよくば友達にでもなれたら。
…………だめだめ、そんなこと考えてどうするっていうの。人様の御厚意をそんな形にしてはいけないでしょうよ。
最初のコメントを投稿しよう!