着ぐるみ、生涯を終える

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(…暑い) 私は今、兎の着ぐるみに身を包み、先日出来たばかりの遊園地のビラを配っている。着ぐるみ自体は好きだが、如何せんこの暑さである。しかも、既にビラ配りを始めてすでに数刻。ギラギラと照りつける太陽と無邪気に私を取り囲む子供たちが、私の体力を奪っていた。 (でも、あと一時間…!) ふと、向かいの歩道に男の子の姿を見つける。その子は私を見るなり、目を輝かせて道路に飛び出した。そして、道路にはトラックが。 「ちょ、馬鹿!!」 事を理解した瞬間、ビラが散乱するのも構わず私は走った。着ぐるみを着ているとは思えないくらいの速さだったと思う。 男の子を突き飛ばすと同時に激痛が走る。私の体はゴム毬のように吹っ飛び、数メートル先のコンクリートに叩きつけられた。 あまりの衝撃に声もでない。腕が、足が、あり得ない方向に曲がっている。着ぐるみを着ていたのにもかかわらず、だ。 (あ、死ぬかも) ぼんやりとした頭で思う。薄れていく意識の中、響く悲鳴と、怒号。子供の泣き声。その声を最後に、私は意識を手放した。
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