序章

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「もう私に付き纏わないで下さい! これ以上付き纏うようでしたら警察に行きます!」 彼女にそう罵られたのは最寄りの駅前。 近く梅雨入りを予感させる5月の頃の事だった。 じめじめした空気が肌にまとわりついて気持ち悪い。 駅前から伸びる小さな商店街から大声に反応した店の人が何事かと顔を出した。 それに気付いた彼女はみるみる内に顔を赤くし、視線に耐えられなくなったのか俯いて顔を隠すようにして走り去った。 一方罵られた俺は事態に反応できず、人々の視線に立ちすくむ。 好奇。 嫌悪。 軽蔑。 様々な色の視線に暑くもないのに(感覚的には寒いくらいだ)汗がどっと噴き出す。 何だ? どう反応するのが正解なんだ? とにかくこの場から逃げないと ……と、 「やだなぁ、あの子なに勘違いしたんだろ…… アハハハハ……」 独り言をつぶやきながらあぶら汗をたらたら、歩きだすことになった。 誰かこの足の震えを止めてほしい。
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