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「桜が美しくてな……秀頼殿も如何か」
「いただきまする」
青年──秀吉の忘れ形見、豊臣秀頼は微笑んで隣に座った。
受け取った杯になみなみと注がれた上等な清酒を、幸村と同じように一気に腹内へ流し込む。
だがその姿に幸村のような余裕はなく、やけ酒のように見えなくもなかった。
この青年が自棄になりたくなるのもわからないでもない。
幸村は気付かれぬよう小さくため息を吐く。
「……真田殿」
溜め息混じりに掠れた声で言う秀頼。
その表情は、年に似合わずひどく疲れているようなものだった。
若々しさが殆どと言っていいほど感じられない。
幼くして豊臣という大勢力の君主となり、色々と思うところがあるのだろう。
俺にはわからぬな、と幸村が思った時、秀頼は言った。
「また、戦になるのでしょうか?」
聞きつつも既に答えがわかっているのか、その声には諦めの色が混じっている。
対して幸村はどこか不敵に笑んで、
「なるでしょうな。おそらく、夏頃に」
「夏、か」
秀頼は桜の向こう側に聳え立つ大阪城を見つめた。
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