散りゆくは

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ひらりと蒼天に舞い上がる、薄桃色の花弁。 満開の桜の木の下で、男は一人酒を楽しんでいた。 良き肴だ、と小さく呟いて杯を一気に干す。 ここは、今は亡き天下人豊臣秀吉が遺した大阪城の城下。 この大きな一本の桜は、派手好きの秀吉が城下で花見がしたいとわざわざ植えさせたものである。 秀吉がこの世から去った後も、かつての栄華を思い出すかのように美しく咲き誇っていた。 「国破れて山河あり、か。皮肉なものだな」 人がどんなに醜い争いを繰り返そうとも、変わらず桜は花開く。 桜を見ていると、人がいかに愚かでつまらないものか思い知らされるようだ。 だからこそ、人は桜に惹かれて止まないのであろう。 と、背後から足音が近づいてきた。 気付かないふりをして、その足音が近づくのを待つ。 姿を表したのは、一人の青年だった。 その優しげな面立ちは、見方によってはひ弱そうに見える。 「こちらにおいででしたか。真田殿」 声をかけられた男──真田幸村はようやく振り返った。 その双眸は、年に似合わない悪戯っ子のような色をたたえている。
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