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城を守るための堀がなくなり、堅牢で名高かった時の姿は見る影もない。
宿敵徳川家康の策略に嵌められ、大阪城は丸裸にされてしまったのだ。
こんな風になってしまった敵陣を、襲わない方がどうかしている。
「……私は、戦が嫌いです」
秀頼は静かに言った。
杯に注がれた透明な清酒の水面に、花弁が舞い落ちる。
「人が死ぬのが嫌いです。そして何より……自分が死ぬのが怖い」
それは、秀頼の本音に違いなかった。
杯を持つ、男にしては白い手が震えている。
幸村は口を挟むことはせず、ただ黙って聞いていた。
「それでも私は、豊臣のため──父上の遺したものを守るため、戦わなくてはなりませぬ」
「守るため、か。それも良いでしょうな」
「……真田殿は恐ろしくないのでございまするか」
秀頼と違う穏やかな表情で大阪城を見つめる幸村に、秀頼は問うた。
夏に起こるであろう戦、恐らく此方に勝機はない。
多くの兵が戦場に命を散らすことになるだろう。
それが、自分になるかもしれないのに。
それなのに、何故。
「どうしてそんな風に、笑っていられるのですか?」
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