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天心さんは死んでいるはずの彼の服の襟を後ろから掴み持ち上げていた。彼は慌てた様子で手足を動かしているが、喋ろうとはしていなかった。私は視界の霞みが無くなったため、ゆっくり起き上がり思い切って彼の前に立って口を開いた。
「鈴木くん、お願いだから成仏して……」
「こいつに成仏してもらいたかったら、真実を知らないといけねぇな」
私が勇気を出して鈴木くんに対して言った言葉に対して、先に天心さんが答えて徐に彼の襟首から手を離した。すると彼は怯えた表情を浮かべて次第に透けていき、最後には消えてしまった。
しかし彼が消えたことよりも、私は天心さんが口にした言葉が気になった。
「……真実ってなんですか」
早く手を打ってくれない天心さんへの苛立ちを隠すことなく、私は鼻が触れないギリギリの距離まで顔を近付けてからわざと怒りを込めた声で問い掛けてみた。けれど、天心さんは私の質問に答えようとはせずに、私から目を離さずに背を向けてゆっくり階段を下りていった。天心さんの目から「ついてこい」と言われたような気がした私は、彼の少し後ろを歩いて一緒に階段を下りた。
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