怨霊

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 彼氏とはそのまま別れてしまい、一人で幽霊によるストーカーに耐えていたある日、アパートのポストに一枚のチラシが入っていた。 「九條除霊事務所」という文字と地図だけ書かれたそのチラシを見ると、何故だが「信用できるんじゃないか」と感じて藁にもすがる思いでチラシの地図を頼りにその場所へ向かった。  古いビルの階段を一歩一歩確かめるように上っていき、三階に辿り着くと茶色い木製のドアが目に入った。ドアには掠れた文字で「九條除霊事務所」と書かれており、私はその文字に吸い寄せられるようにドアへ近づき、迷うこと無くドアノブを回してドアを押して中へと入った。  事務所の中は殺風景で、奥に黒く立派な机、部屋の右隅には灰色のガラスケース、そして真ん中には黒いソファーが置かれていて、ソファーには男の人が項垂れて座っていた。  「依頼者か?」  不意に男の人から少し低い声で声を掛けられると、驚いて肩を竦めてしまったが後ろ手でドアを静かに閉めてから男の人に近づいていき、目の前に立つと男の人はゆっくり顔を上げて私のことを見上げた。私は紅い左目を思わず見つめてしまった。
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