怨霊

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 「そいつはお前に殺意を抱いている」 その言葉を聞いた瞬間、私は生きている心地がしなかった。全身を恐怖に支配される感覚で、震えも増していたけど何故か口だけは動いた。 「なんで私が!?」 「そんなのオレが知るか。取り敢えず殺意が消えない限りは此方からは手を出せないが、当分は安心していい」 「……どうしてですか?」 「そいつは殺意があるが、怖くて何も出来ないんだ。……ただのヘタレだ」  最初に感じていた天心さんのイメージが崩れていく。今では非常に冷徹な雰囲気すら感じる。 「いろいろ準備があるから今日はもう帰れ」 天心さんは素っ気なく私に対して言い放つと、右手で払うような素振りをされた。私は納得がいかなかったけど、軽く会釈をして彼に背を向けて部屋を後にした。しかし部屋を出た瞬間に私は何者かに押し倒された。  首を絞められ、次第に意識が遠退いていく。掠れていく視界でもはっきりわかるぐらいに彼の憎しみに満ちた顔が見えた。突然の出来事だったため、抵抗することができずに意識を手放す瞬間だった。 「思った通り、幼稚な奴だな」 まだ聞き慣れていない声が聞こえたと同時に、私の首を力強く絞めていた彼が何故か離れ、私は首が解放された途端に酷く咳き込んでしまった。 「オレが軽く挑発しただけで即行動か。ヘタレで幼稚、単純、ダメな男だな」 視界は霞んでいたけど、耳からしっかり天心さんの声が聞こえ次第に呼吸を整ってくるとゆっくり体を起こしてみた。霞む視界の中で前を見つめると、ぼんやり二つの影が見えた。
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