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深く静まりかえった暗い森の中には先ほどから、その人物が吐く荒い息の音や、枯れ落ちた枝を踏む音しか聞こえて来なかった。
その僅かな音でさえ、ほんの数メートル離れただけで、まるで夜の森に吸い込まれるかのように消えてしまう。
追手らしき者の音は、全くない。
しかし、立ち止まればすぐにでも追いつかれてしまいそうなほどの気配を、その人物は感じとっているようだった。
真っ暗闇の深い森の中とはいえ、繁殖期を迎えた雌を呼ぶ虫達の声や、自分の縄張りに入り込んだ者を威嚇する夜行性の動物達の声なども聞こえてくるのが当たり前である。
それなのに今は、まるで広大な森全体が恐怖に怯え、息を殺して静かに時が過ぎるのを待っているかのようだった。
夜の森がこんなにも静まりかえっていること自体が、何か不吉な物が迫っている証拠なのだということを、その人物も直感的に感じとっているのかもしれない。
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