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「あっ」
突然小さな悲鳴を上げ、その人物が転んだ。
土から出た木の根に足を取られたのだ。
鈍い音と共に、手をつく暇もなく頭から地面に倒れ込む。
白いマント姿の人物から発せられたその声は、まだ十代と思し少女のものだった。
少女はここに来るまでの間も、何度も同じように転んだ。
その度に、まるで強い信念に押されるように立ち上がり、また走り出してきた。
だが、今回は違っていた。
空腹と疲れが、その気力を無くさせてしまっていたのだ。
倒れたままの姿勢から、動こうともしなかった。
もうこのまま死んでしまってもいいかなという考えが一瞬、少女の頭をよぎった。
そうすればこれ以上、恐怖に怯えることも苦しむこともなくなるだろう。
──お父様だってきっと、よくここまで頑張ったと言ってくれる…
少女は優しかった父親の顔を思い出し、ふと、走りながらも知らず知らずに握り締めていた右手に目をやった。
力を込め過ぎ血の気をなくした右手を、そっと開いてみる。
その中には、父親から託されたネックレスがあった。
金のチェーンに、親指の先ほどの大きさの赤い石が付いているものだった。
その赤い石は、まるで炎のようにユラユラと揺れる、不思議な鈍い光を発している。
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