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少女が倒れた場所に別の人影が現れたのは、それからしばらくしてのことだった。
その姿はまさに、異様としか言い表せない。
袖のない麻の衣に、薄汚れた布製の腰巻。
腰巻の後ろには、刃渡りが指先から肘くらいの長さの短剣が取り付けてあった。
皮製の胸当てを付けただけの軽装姿は、防御力より機動力を重視したものだ。
このような森の中を歩くのには、むしろ都合がよい装備だといえる。
異様なのは、その軽装から覗かせる四肢の方だった。
手足には、皮膚が見えないほどの体毛が生え揃っているのだ。
その指先には、長く頑丈そうな爪まで伸びている。
腰に取り付けた鞘の下部から飛び出た獣の尻尾は、飾りなどではなく、本物なのであろう。
時折、重力や風とは無関係に左右へと動いている。
その獣のような姿をした人物…いや、むしろ、人の姿をした獣といった方が正しいだろう。
なによりその頭部は、犬そのものなのだから。
その犬の頭部を持つ獣人は赤く輝く鋭い目を凝らし、ゆっくりと辺りを見回していた。
視力は普通の人間よりも劣る。
だが、どんな暗闇でも、ほんの僅かな星光ほどの光さえあれば、昼と同じくらいの明るさで見ることができた。
目だけでなく、三角に尖った耳をまるでレーダーのように動かしているのは、その聴覚が人間のよりも数倍優れているからだ。
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