死の足音

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 驚いた。誰も信じないであろう馬鹿げた話を、この谷口さんは信じようとしている。そんなに篠原という男には影響力があるというのか。 「行方不明者は恐らくだが、既にこの世にいない」 「根拠は?」 「僕の友人が人を殺したと記した、小説染みたものを遺しています」 「後でそいつを見せてくれ」 「検討はしましょう。今はそれよりも、まずい状況なのでね」 「どういうこった?」  珈琲を飲みつつ、篠原が谷口さんに今までのことを簡潔にまとめて伝えた。谷口さんも、珈琲を音を立てて啜りながら、興味を持ってそれを聞いている。  その際、俺が包丁を持って人を殺そうとしたことまで話したおかげで、谷口がなぜだか嬉しそうに手錠を俺に見せびらかしてきた。  殺人未遂にはなるんだろうが、あれは俺の意思だけじゃないし、捕まるわけにはいかないぜ。  ひやひやしたが、どうも冗談だったらしく馬鹿にされた後、谷口さんは篠原に向き直る。  篠原が話し終えると、谷口さんはどうにも腑に落ちないのか納得していないのか、唸りつつ怪訝な顔つきで、煙草を胸ポケットから取り出してくわえ火を付けた。  煙草の煙がもくもくと立ち上る。谷口さんが吐いた煙は、むせかえるような臭いだ。 「つまり、なにか? まだ自殺者が出るのか?」 「恐らく」 「参ったぜ。俺の仕事は本来であれば殺人だとか、そういう事件を受け持つことだ。 自分で死んだ奴らなんて、犯罪者じゃねぇからなあ。どうすりゃいい」  がしがしと頭を掻いた谷口さんが、上着の内ポケットから携帯灰皿を取り出して、吸っていた煙草を押し込めた。 「なら、一つ頼まれてくれますかね? 僕達の目になってもらいたい」 「目だと? 何をしろってんだ」 「文字通りさ。警察内部にも奴の同類はいるだろうが、幾分人手が増えればこちらも動きやすくなる」
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