死の足音

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 四人ようのテーブルに、店の奥を背に篠原と俺が並んで座り、その向かいに谷口さんが腰掛ける。瀬野尾はカウンター席で、堀川が淹れてくれる紅茶を啜っておっとりと過ごしているようだ。 「生憎、事情聴取の時間も惜しいほど、僕達は色々と忙しいのだが?」 「死人が出た以上、話は訊かなきゃなんねぇ。状況を見るに他殺には見えなかったがな。刃の刺さり具合から見て、ありゃあ自分で刺したんだろ」 「解っておられるのなら、我々が話すことは特にないですね」  「相変わらず嫌なガキだな。親父さんとは似ても似つかねえ。ま、そこも変わらずだけどよ。 お前、今度はどんな事件に首突っ込んでんだ?」 「くくくっ、黙秘権を行使させてもらうよ」 「あん、言えねぇのか」 「さて? 谷口さんの興味はどうやら、別に向いているらしい。そちらが本題か?」 「良い勘してるぜ。そう、俺が訊きたいのは別のことだ」 「ほう。あの女性については絶対自殺だと?」 「ああ、間違いない。検察やらの報告はまだだが、ちらっと見ただけでもありゃあ他殺じゃないと言い切れるぜ」  そこは、さすがにベテランといえばいいのか。それとも、刑事にしては軽率な発言と蔑めばいいのか。 「それで、何を訊きたいと?」 「実はな、ここ最近行方不明だってんで、捜索願いを出す町民が増えてんだ。何が起きてるか分からんが、それとお前の事件と、なにかしら関連があるのかと思ってよ」  谷口さんは勘の良さを見せる。伊達に長年事件を解決してきたわけじゃない。  行方不明者が出ているらしい。それは、あの康司が殺した女性だとか、悪魔と関わりのある人達が死んだことによって起きていることじゃないのか? 「なるほど、相変わらず鋭い。僕達は今、悪魔を追っていましてね」 「は? 悪魔?」  谷口さんは角張った鰓顎をボリボリと掻きながら、呆れたような眼差しを向けた。 「そいつは他人に憑依して、あちらこちらに姿を移すんですよ。くくくっ、これがまた厄介でしてね」 「……普通だったら、アホかって一言で終わる会話なんだがな。お前が言うってこたあ冗談じゃあねぇのかね」
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