5593人が本棚に入れています
本棚に追加
/181ページ
篠原が危惧しているのは、自分の特攻によって他人が犠牲になることだ。
悪魔に侵食された人間は未知数だ。奴は自分を守るために、何人だろうと身代わりに殺すだろう。
今それをしないのは、バフォメット本人にしても、悪魔の一片は有限の資源だからだろう。無駄に数を減らすのは得策ではない。
睨み合いをしている状態。どちらかが先に動けば、その隙を突かれる。
篠原の挑発に奴が乗れば、篠原が活路を見出だすことになるはずだ。しかし、そう上手くもいかない。
どうなるんだ、これは。
常人には見えない戦いが起こっている。それはきっと、冷たい戦争だ。
「身動きとれないな」
「なら、俺達警察が!」
「いやいや、谷口さん。誰だろうと、奴に近付いたら人が死にますって。大体あんた、バフォメットの居場所を知らんでしょう」
「なら篠原坊主に訊けばいい」
「くくくくっ、誰が教えるものか」
「はあん!?」
谷口さんがテーブルを叩いた。ちらりと横目でカウンターを見れば、堀川が不安げにこちらを眺めている。
「これの中に、奴がいると話したでしょう。無駄に情報を与える訳にはいかない」
「あ、ああ。そういえばそんなことを」
「なら、俺に聞かれないようにするとか」
「くくっ、仮に君がここに居なくとも、谷口さんには何も教えんよ。無謀な突進をされても困るのでね」
瀬野尾が軽く笑う。俺もごもっとも、と笑ったら、谷口さんに頭を叩かれた。
最初のコメントを投稿しよう!