死の足音

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 篠原が危惧しているのは、自分の特攻によって他人が犠牲になることだ。  悪魔に侵食された人間は未知数だ。奴は自分を守るために、何人だろうと身代わりに殺すだろう。  今それをしないのは、バフォメット本人にしても、悪魔の一片は有限の資源だからだろう。無駄に数を減らすのは得策ではない。  睨み合いをしている状態。どちらかが先に動けば、その隙を突かれる。  篠原の挑発に奴が乗れば、篠原が活路を見出だすことになるはずだ。しかし、そう上手くもいかない。  どうなるんだ、これは。  常人には見えない戦いが起こっている。それはきっと、冷たい戦争だ。 「身動きとれないな」 「なら、俺達警察が!」 「いやいや、谷口さん。誰だろうと、奴に近付いたら人が死にますって。大体あんた、バフォメットの居場所を知らんでしょう」 「なら篠原坊主に訊けばいい」 「くくくくっ、誰が教えるものか」 「はあん!?」  谷口さんがテーブルを叩いた。ちらりと横目でカウンターを見れば、堀川が不安げにこちらを眺めている。 「これの中に、奴がいると話したでしょう。無駄に情報を与える訳にはいかない」 「あ、ああ。そういえばそんなことを」 「なら、俺に聞かれないようにするとか」 「くくっ、仮に君がここに居なくとも、谷口さんには何も教えんよ。無謀な突進をされても困るのでね」  瀬野尾が軽く笑う。俺もごもっとも、と笑ったら、谷口さんに頭を叩かれた。
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