3人が本棚に入れています
本棚に追加
1995年、アメリカ。ニューヨークの町外れの公衆電話に、俺、黒瀬響哉はいた。
アメリカでの『仕事』を終えて数週間。報酬を3日で使い果たしてしまった俺は、次の仕事を貰うため、『上司』に電話をかけるという目的で、こんな町外れの公衆電話までやって来たのだった。
10分ぶんの小銭を入れ、受話器を手に取る。何年も放置されていたのであろう。取った瞬間に、綿埃が舞い上がった。
ちゃんと通じるだろうか。
そんな心配を他所に、受話器の奥からは軽快な呼び出し音が聞こえ始めた。
(良かった、通じるみたいだな。)
心中で一息つき、電話が通じるのを待つ。
2~3回コール音がループしたところで、ガチャリという音が俺の鼓膜を揺らした。
続いて、低く心地よい声が響く。
『こちらHOUND DOG傭兵社。』
「『殺し』科の黒瀬だ。」
俺がそう告げると、先ほどまでの事務的な声とはうって代わり、フランクなオッサンの声に早変わりした。
『よぉ、黒瀬!お手柄だったな!依頼人も涙を流して喜んでたぞ。これで息子の敵が取れたって。』
俺の仕事。それは平たく言うと、殺し屋だ。世界を股にかけてバカ稼ぎする秘密結社、『HOUND DOG 傭兵社』。
社内の科目は数百にまで分類され、ハッキング科から探偵科、殺し科まで、様々なものがある。
俺はそのなかの『殺し』科の部隊長に腕を買われ、今まで働いてきたのだ。
「そりゃ良かった。殺した甲斐がある。……ところで、次の仕事なんだが。」
『ん?ああ。もちろんあるぞ。』
良かった。また1ヶ月ピザ生活がスタートするのかと思ったよ。
「そうか、良かった。で、どんなのだ?」
『今回はちと厄介だぜ、黒瀬。軍事施設に潜入して、視察にきている国の総督を殺してほしいそうだ。』
国の総督?
おいおい……。戦争でもおっ始めるつもりか?
『その代わり、依頼料は半端無いぜ。死ぬまで遊んで暮らせる。』
「……詳しく聞かせて貰おうじゃないか。」
こうして金に目の眩んだ俺は、総督暗殺なんて言う、ほぼ不可能な依頼を受けちまったとさ。
これが、どんなことになっていくのかも露知らず。
最初のコメントを投稿しよう!