3. 理想と現実

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さっき話せなかった、終わる時間をメッセージで送る。 〈会場、アキバ方面です。だいたい23時ぐらいまでかな?〉 〈了解。こっちも今から打ち合わせ。住所だけ教えておいて。あのヒール似合ってた。いいね、赤いの〉 週の後半、特に金曜日は、会食ありの打ち合わせや勉強会が毎週のように入る。 私も、今日は完全プライベートだけど、芳川さんは毎週、というより毎晩ものすごい事になっていて。 本格的に株式上場の準備に入って半年ちょっと。 「取締役になっておいた方がいいと思う。そろそろ決めるならリミットだよ」 もう、芳川さんからは、3回は直接言われてる。 証券会社の担当者にも、会う度に言われるし。 〈経営者になりたい!起業したい!〉とか、〈有名になる!〉とか、そんな事が目標じゃなかった。 まだ、25歳。 芳川さんがリパブリックを創業した年齢だし、会社を作ったり経営側に回るのに、それほど「早すぎる」とまでは思わない。 でも、普通はペーペーの年齢だっていう自覚はある。 「Mee」の成長、拡大。 求められているサービスを、最適な時期に最大限に。 アイデアを出して、プロジェクトを進めたのは私。 私が責任あるポジションにいないと、周りだって納得しない。 そんな事、頭ではわかってる。 この2年、がんばってきた。 これ以上に手応えがないぐらい、仕事は楽しい。 でも、取締役になる・・・。 私が? 出来る? どうしても、即答は出来なかった。 贅沢な悩みかな? 今だって、ストックオプションでそこそこの権利を持っているけど、上場した時に取締役になっていたら、それはかなりの額面になるだろうな。 そりゃあ、収入が増えるのは、うれしい。 ・・・だけど。 どうしても、後悔してしまう。 あの時、神戸で、どうして私からキスしちゃったんだろう、って。
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