浅き夢見じ 酔ひもせず

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光流とゆき乃は、まず愛花の元へ向かった。 愛花は乾物屋の看板として、そこにあった。 ひらがなで、あいかちゃんと書かれている。 乾物屋の看板でありながら、合羽橋本通りのマスコットとして観光客や地元の買い物客を笑顔で迎えていた。 「愛花は河童の里でもここでも人気者だな…」 愛花に語りかけ、光流はキュウリを置く。 「……」 愛花は現れなかった。 「行くぞ…」 光流は言葉少なに歩き出す。 ゆき乃も無言になり、ただ光流についていった。 肉屋の店先に置かれた、小さい身体のきっちゃんの置物。 合羽橋本通りの端に置かれた、縄で縛られた力丸星の置物。 どちらも、語り出すことも、動き出すことも無かった。 三匹の河童は光流の神通力により完全に封印されていたのだ。 光流とゆき乃は曹源寺に戻る。 午前中の合羽橋本通りは、観光客が来始め、活気づいてきていた。 「ぎー、やっぱ封印されてないの、お前だけだったぞ」 光流は石門の裏にある、ぎーの石像に声を掛けた。 「……」 ぎーの石像は何の反応もしない。
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